セシウム編に引き続きストロンチウム90について内部被曝の真実に迫ろうと思っています。安全な食品を見分ける力をつける事が目的です。
必要以上に恐れない、無頓着にならないことが大切だと思っています。

さて、前回は、天然放射性物質であるカリウム40とセシウム137の比較をしました。

それでは、ストロンチウム90はどうでしょう?セシウムの値が高い食品を測定したり、事故近隣の植物を測定すれば、必ず出てくるはずのストロンチウムは、全く無視されてその存在は認められていません。

人間は自分たちでどうする事もできないものに蓋をして、何も無かったことにする。都合の良い才能を持っているのかもしれません。

ストロンチウム90は、カルシウムと同じく、2価の原子で+2の正イオンになるため、体はカルシウムとストロンチウム90の区別をつけることができず、体内に入ってきます。

ただし、ストロンチウム90はカルシウムに比べると、胃腸管からの吸収率が低くなります。

それは、腎臓から尿として効率的に排出される事を意味します。

しかし、全身残留量のほとんどが骨沈着となる厄介な特徴を持ちます。
そして、学説にも依る為、幅がありますが、6〜18年間程の長い間、骨に居座って放射線を出し続けます。

ストロンチウムの特性(※放射性核種ストロンチウム90だけでなく一般のストロンチウムについてです)

◇ 年少者によく吸収される。

◇ 主として回腸および十二指腸で吸収される。

◇ 牛乳、粉ミルク、乳栄養は吸収率を増加させる。

◇ ビタミンD、リジンやアルギニンなどのアミノ酸の過剰摂取は吸収率を増加させる。
◇ 藻類および繊維性セルロースは吸収率を低下させる。

副甲状腺ホルモンは骨貯蔵を加速させる。

マグネシウム欠乏は吸収率を低下させる。

◇ ストロンチウムは胆汁と腎臓を介して排泄される。

◇ ストロンチウム穀物のフスマ、根菜類の皮、米の糠等にきわめて高濃度で存在する傾向がある。

◇ 環境によっては、飲料水に大量に含まれることがある。

◇ ストロンチウムはカルシウムに類似した生理学的および化学的作用を有するが、必須性は確立されていない。

▲年齢別ストロンチウム90の体内動態

放射性核種ストロンチウム90の経口摂取における線量係数の年齢別比較割合
(1Bqを経口あるいは吸入により摂取した人の実効線量係数)
<線量の積分期間は,子どもでは摂取した年齢から70歳までとしています>

全身において (成人を1とする) 

◎ 3箇月の乳児 ⇒ 8.2倍  (大人の8倍もダメージを受けるのですね)

◎ 1歳     ⇒ 2.6倍

◎ 5歳     ⇒ 1.7倍

◎ 10歳    ⇒ 2.1倍 

◎ 15歳    ⇒ 2.9倍  

骨表面において (成人を1とする) 

◎ 3箇月の乳児 ⇒ 5.6倍  

◎ 1歳     ⇒ 1.8倍

◎ 5歳     ⇒ 1.5倍

◎ 10歳    ⇒ 2.4倍 

◎ 15歳    ⇒ 4.4倍  (骨表面のダメージは全身に比べ大きいですね)


梁骨表面において、ストロンチウムの吸収の年齢差(成人を1とする)

◎ 3箇月の乳児 ⇒ 5.4倍  (この時期の成長速度は目を瞠るものがありますものね)

◎ 1歳     ⇒ 3.2倍

◎ 5歳     ⇒ 2.8倍

◎ 10歳    ⇒ 3.8倍 

◎ 15歳    ⇒ 4.8倍  (中学生は成長期真っ盛りだからでしょうか)

〜吸収されたストロンチウム90は血液から骨や歯に運ばれる〜

★血中への取り込み(成人)

成人において、食物中のストロンチウム及び可溶形ストロンチウム(ストロンチウムの化合物)の吸収は15%から45%の間です。

食物からのカルシウムの一日の摂取量を30〜40 mgから0〜10mgに減らした場合,ヒトのストロンチウム吸収割合は20%から40%に増加してしまうことが分かっています。

★血中への取り込み(子供)

牛乳を与えられた乳幼児ではストロンチウムの吸収は73%以上となる結果があります。
(ですから、汚染された牛乳や粉ミルクは危険です)

動物実験では,年齢が若い個体ほど,ストロンチウムの吸収が高いことが示されています。

(高ストロンチウム食と低カルシウム食と摂取させたブタでは、骨の変形が認められ、最も重症な影響は協調運動障害および衰弱、その後の尾部麻痺であった)

これは、ストロンチウムはカルシウムの取り込みを妨げる、ということと、食物中のカルシウム摂取が少ないとストロンチウムの吸収が増加するということを表しています。

ストロンチウム吸収を抑えるためにカルシウムをきちんと摂取しましょう。

カルシウムの多い食物 (100gあたり)

  • 干しえび           7100mg
  • かに(加工品)        4000mg
  • バジル(粉)          2800mg
  • カタクチイワシ    2500mg
  • ベーキングパウダー      2400mg
  • タイム(粉)     1700mg
  • セージ(粉)       1500mg
  • パセリ(乾)     1300mg
  • パルメザンチーズ    1300mg
  • えんどう(塩豆)    1300mg
  • シナモン(粉)    1200mg
  • ごま         1200mg
  • たたみいわし       970mg
  • わかめ(乾)    960mg
  • 刻み昆布      940mg
  • 山椒          750mg
  • チェダーチーズ    740mg
  • あおのり       720mg
  • 干し真昆布       710mg
  • ゴーダチーズ       680mg
  • 高野豆腐        660mg
  • クローブ(粉)     640mg
  • プロセスチーズ     630mg
  • 唐辛子(油いため)    550mg
  • カレー粉        540mg
  • 紅茶             470mg
  • 煎茶             450mg
  • 即席中華麺          430mg
  • コショウ           410mg
  • エスカルゴ          400mg
  • ししゃも           380mg
  • ビスケット          330mg
  • さんま(缶詰)         280mg
  • 焼き海苔           280mg
  • あさり            260mg
  • ホワイトチョコ        250mg
  • だいず(きな粉)        250mg

さて、セシウム137について前回使った資料を今回のストロンチウム90でも使います。
原発事故から既に1年が経過しようとしている現在、セシウムの測定は行われてもストロンチウムの測定は満足に行われてきませんでした。1963年核実験で汚染されたと言われていた時期はきちんと測定されていました。

<Bq/kg>

1963年「白米の全国平均値」

ストロンチウム90                 

0.269ベクレル      

セシウム137

4.179ベクレル

1963年当時、米に関しては農水省の資料によると、精米する事でストロンチウム90はかなりの減少をすることから、もみがらや糠の含有率が高く、セシウム137は精米しても残留量が多いことから全体に分布するという結論をデータ化していました。<残念なことにその資料は活用されず、埋もれたままなのか?故意に埋もれさせたのか、今に至っています>

<Bq/kg>

1963年「玄麦」

ストロンチウム90                 

12.3ベクレル      

セシウム137

43.6ベクレル

農水省の資料による結論にもありますが、ストロンチウム90は精米して外側を落とせば減少するようです。
白米では、ストロンチウム90はセシウム137の「16分の1」の含有量ですが、外側を落としていない玄麦ではストロンチウム90はセシウム137の「4分の1」という多さとなります。

ストロンチウム90に関しては外側を落として食べれる野菜に対する含有量は少ないようです。

ストロンチウム90が危険といわれる訳は、ストロンチウム90からベータ壊変で生まれるイットリウム90が、ベータ壊変する時の威力の強さにあります。
ストロンチウム90が、 546KeV(54万6千電子ボルト)に対し
イットリウム90では、 2280KeV(228万電子ボルト)という高エネルギーのベータ線を放出します。
また、この高エネルギーのベータ線は医療で使われています。イットリウム90でできた針は、メスよりも正確に切断を行うことができるので、痛覚を伝達する脊髄の神経を切り離すのに使われます。

人体では肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨に濃縮する傾向があります。また、成人の体内には、0.5 mg程度のイットリウムが含まれています。ちなみに、成人の体内にあるストロンチウムの量は320㎎程度です。

ストロンチウム90は半減期は28.8年でβ崩壊によりベータ線を放出してイットリウム90を生成し、イットリウム90も半減期が64.053時間でβ崩壊によりベータ線を放出してジルコニウム90となります。イットリウム90は、核分裂直後はほとんど存在しないが、時間の経過とともに量が増します。

そして、ストロンチウム90ですが、半減期は28.8年というスパンで減っていき、放射能強度は、1グラム中 5105000000000(5兆1050億)ベクレルというセシウム137よりも高い放射能強度を持ちます。<28.8年=9.082368×10の7乗 (秒):アボガドロ定数 6.022×10の23乗で計算しました>

イットリウム90は半減期が64.053時間という短いスパンで減っていきます。放射能強度は、1グラム中 20110000000000000(2京110兆)ベクレルというストロンチウム90よりも遥かに高い放射能強度を持ちます。<64.053時間=2.305908×10の5乗 (秒):アボガドロ定数 6.022×10の23乗で計算しました>

同じ質量だったらイットリウム90は、ストロンチウム90の3939倍、だいたい約3900倍の放射能強度を持っているということになります。

逆に言うと、同じベクレル数だったら、イットリウム90は、ストロンチウム90の約3900分の1という物凄く少ないグラム数で放射能強度が等しくなるということです。

実はここが重要です。ストロンチウム90が崩壊しないとイットリウム90は生まれません。ということは、同じベクレル数になっているということなので、1のストロンチウム90に対して、約3900分の1の量のイットリウム90が存在し、放射能強度が等しくなっているのです。
これは、ストロンチウム90の半減期イットリウム90の半減期より圧倒的に永いから起こる現象です。

少し想像してみましょう。

玉1個入りの中袋が入った大袋、2重袋があります。これはストロンチウム90です。
中身の中袋はイットリウム90です。中袋のまたその中身に入ってる玉はジルコニウム90です。

部屋の床一面に7800個の大袋(ストロンチウム90)が置いてあります。その大袋(ストロンチウム90)は3900秒で半分の3900個を破裂させる力を持っています。1秒間に1個ずつ破裂する計算です。
中袋(イットリウム90)は1秒で半分の3900個を破裂させる力を持っています。大袋(ストロンチウム90)の3900倍の力です。1秒間に3900個破裂できる計算です。
1秒間で、大袋が破裂しました。中から空気(ベータ線)が出て、中袋(イットリウム90)がポ〜ンと転がり出ます。
それから1秒後、1秒前に出た中袋(イットリウム90)が破裂しました。中から空気(ベータ線)が出て、玉(ジルコニウム90)が1個、勢いよく飛び出てきました。同時に、また大袋(ストロンチウム90)も新しく破裂しました。中から空気(ベータ線)が出て、中袋(イットリウム90)がポ〜ンと転がり出ます。
1秒で、中袋(イットリウム90)は3900個分破裂できる力を持っていますが、中袋はまだ2個目が出てきたばかりで3900個もありません。しかたなく1秒前に出ていた中袋(イットリウム90)1個を破裂させたのです。
そのまた1秒後、1秒前に出ていた中袋(イットリウム90)が破裂しました。中から空気(ベータ線)が出て、玉(ジルコニウム90)が1個、勢いよく飛び出てきました。と同時に、また大袋(ストロンチウム90)が破裂しました。中から空気(ベータ線)が出て、中袋(イットリウム90)がポ〜ンと転がり出ます。
もし、中袋(イットリウム90)が部屋の床一面に7800個あったとしたら、1秒で半分の3900個を破裂できたでしょう、しかし、実際には大袋(ストロンチウム90)が7800個あっただけなのです。中袋(イットリウム90)は、最初はまだ1個もない状態から始まって、増えて、大袋(ストロンチウム90)と共に減っていくしかできません。3900個分破裂できる力は発揮されず、3900分の1の力、つまり大袋(ストロンチウム90)と同じ数ずつ破裂し続けるだけです。

短い半減期を持ちながら、一気に壊変することがなく、ストロンチウム90と一緒に28年掛けて半減していく、これがイットリウム90です。
この状態は、永続平衡と呼ばれています。

もし、その短い半減期を駆使し、一気に高エネルギーの228万電子ボルトというベータ線を大量に放出できたとしたら、福島第一原発の事故によって汚染された私達は、今よりもっと笑っていられなくなっていたことでしょう。

福島のおかあさん、どうか子どもたちを、精一杯の愛情で内部被爆から護ってあげてください。これから長い年月、油断してはいけません、おおらかに、そして細心の注意をはらって「必要以上に恐れない、無頓着にならない」精神を貫き通してください。心から願って止みません。

数年後、どうか、日本の子どもたちに何の変化も現れませんように。

※文章内のデータは全て農林水産省厚生労働省が発表した資料の数値を基に書かれています。
制動放射は話が複雑になるので、ベクレルの説明に含まれていません。
※文献(Mertz W., Trace Elements in Human and Animal Nutrition. Vol 2. Academic Press 1986, p436.)